犬神人、あるいはカロンの言葉 終章

カロンは、エウメネス幼少期の従者(奴隷)。

エウメネスは、アレクサンドロス大王の書記官である。

カロンは架空の存在(漫画『ヒストリエ岩明均 の登場人物)であるが、

そもそも古代ローマ(幼少期の舞台はギリシャであるが)の奴隷で

歴史上名を残したのは、スパルタクスしか知らない

(解放奴隷では、皇帝にまで駆け上った人物がいる)。


(因みに、スパルタクストラキア人で、エウメネスが奴隷に落とされる切っ掛けとなったのは、スキタイ人の奴隷、トラクスの反乱による。その名「トラクス」のせいで、スキタイ人トラキア人の混乱が起こりそうである)

上の場面は、出生の謎がときあかされることにより、奴隷に落とされ船で売られていくかつての主人エウメネスを送るカロンの涙のシーン。

感動的な場面だが、劇画的誇張である。おそらく奴隷は人前で涙を流すことはない。(もちろん、カロンはひとりで涙を流している)

親鸞没後200年、犬神人は涙を流す。

(「異形の王権」か求心力を失い、その周辺に集まった人々を再結集したのが蓮如の吸引力であった。実際に「つるめそ=犬神人」と蓮如は交流があった。それは別の話とする)

親鸞滅後33年、曾孫覚如が聖人の伝記を著そうとしたとき、その史料としたのが、親鸞面授の直弟子の証言であったろう。その記憶の一つに、親鸞の墓をジッと見つめる犬神人の一こまがあったと考えられる。

初稿本を焼失した覚如は晩年、再稿本を書き表す。その時、この一段は欠落する。他者の証言に基づく「他者の痕跡」であったからだ。

「他者の痕跡」の光源を、かき消してしまうほど威光を放つのが、




大谷本廟の創建」の一段である

ebaponはこの問題を


「玉虫厨子

の成立に潜む問題として、考察していく。