いつまでも平和でいますように 2

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 広島の第二中学校奉仕隊は、あの八月六日の朝、天満橋かどこか広島西部の或る橋の上で訓辞を受けているとき被爆した。その瞬間、生徒たちは全身に火傷をしたが、引率教官は生徒一同に「海ゆかば・・・」の歌をピアニシモで合唱させ、歌い終わったところで「解散」を命じ、教官は率先して折から満潮の川に身を投げた。生徒一同もそれを見習った。たった一人、辛くも逃げ帰った生徒からその事実が伝わった。やがてその生徒も亡くなったと云う

 井伏鱒二『黒い雨』より


娘が平和授業から帰ってきて

「お父さん、黒い雨って知ってる」

「うん。原爆や空襲の後に降る雨のことだ」

「その雨にあたると死んじゃうんだって」


『黒い雨』というと、井伏鱒二の小説を思い出す。

(ひさびさに読み返している。

 前回、読んだのは昭和63年8月24日)

主人公は、所長の命令で葬儀を僧侶のかわりに勤めることとなる。

何度も、読み返す白骨の御文章(おふみ)は、暗唱すれども、なかなか心にしみていかない

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映画版でも、白骨の御文は確か流れていた記憶がある。

spレコードを引っ張り出し再生してみる。


白骨の御文は、存覚の法語を下敷きとし、その法語は後鳥羽の無常講式を参照している。

後鳥羽は『九相詩絵巻』をもとにし、この絵巻は『大智度論』を・・・


白骨の御文と、九相図さながらの死者達を前にして、その乖離に主人公の心は揺れる。


(9歳児童の葬儀を営み、拝読文の白骨の御文についてしばらく思うところがあった。いま、『黒い雨』を再読しながら、こころの揺れの所在が見えてきたようである)