ある日、米軍特殊部隊や北部同盟兵士らが、空爆で殺した兵士らの遺体から、指を切り取って集めているという噂話を耳にした。米側がDNA鑑定をして、オサマ・ビンラディンやその側近のものか、確かめるためだという。山岳部を中心に猛爆撃を加えては、死体の指を切り落とし収集するという、およそ文明とも文化ともいえない作業を想像して、私は身震いしたことだ。
これは「戦争」ではない〜カブールで考えたこと〜 辺見庸
朝日新聞2002/01/08
コーサラ国のバラモンの子として生まれたアヒサンカ(不害)。
長じて技芸にすぐれ師匠から可愛がられたが、嫉妬した仲間の謀略で
師匠から、
「技芸の完成には千人の右手の指を集めて来ることである」
と言い渡される。
殺戮者「アングリマーラ(指蔓)」の誕生である。
千人目に出会ったのがブッダ。
圧倒され、武器を捨て、出家し、仏弟子となる。
托鉢中、彼は、難産で苦しむ女性を目にし
「ああ、なんと生けるものたちは苦しむことか」
と思い、
そう仏にも報告した。
すると仏は、こういわれた。
「アングリマーラよ、そなたはその女性のいるところに近づいて行きなさい。
行ってこのように言うのです。
『婦人よ、私は生まれて以来、故意に生き物の命を奪った覚えがありません。その真実によって、あなたは安らかになりますように、胎児は安らかになりますように』と」
「尊師よ、それでは意識的な嘘をつくことになります。なぜなら、尊師よ、私は故意に多くの生き物の命を奪ったからです」
「それでは、アングリマーラよ。そなたはその女性のいるところに近づいて行きなさい。
行ってこのように言うのです
『婦人よ、私は聖なる生まれによって生まれて以来、故意に生き物の命を奪った覚えがありません。その真実によって、あなたは安らかになりますように、胎児は安らかになりますように』と」
中部経典『アングリマーラ経』(片山一良『パーリ仏典入門』より)
その後、長老は修行を励み、阿羅漢になった。
しかし、托鉢に出ると、他の者から石や棒を投げつけられる。鉢も割れ、大衣も裂かれ、頭から血が出る。
仏はそのようなかれをご覧になり、こういわれた。
「バラモンよ、そなたは耐えなさい。バラモンよ、そなたが地獄で数年、数百年、数千年にわたって受けなければならない業の果報を、バラモンよ、そなたは現世に於いて受けるのです」
(同上 六節)