「おいきなさい、触れませんから」
『死海のほとり』の主人公をして過去の出来事として思い起こさせるエピソードは
実際、遠藤周作が経験したことであると言われている。
「イエスは癩者に手を触れて、何人、治したんだっけ」
遠藤周作が信者学生であった頃、国の絶対隔離政策に抗した医師として
小笠原登博士がいた。真宗寺院の出身であった。
(同じく本願寺派出身のジャーナリスト三浦参玄洞も筆を揮った)
博士の謦咳に接した大谷藤郎は
「外来診察室で、患者さんの赤い大きな結節や斑紋を素手でなぜながら、患者さんの訴えにうなずき、ときに自分の意見や仏話を交えて淡々と話される先生の姿は私には救世主のようにみえたものでした。」大谷藤郎「小笠原登先生の思い出」『小笠原登先生業績抄録』
と語っている。
(仲尾孝誠『ハンセン病国家賠償訴訟で問われたこと −念仏は人間のためのものであるのか−』中央仏教学院紀要第一二・一三号参照。抜刷がネットで公開されている。)
小笠原博士が論陣を張ったのは中外日報。
しかしその主張も「邪説」として退けらてしまう。