甚吉音頭

はな虫さんとこの裏に地蔵堂がある

以前は大銀杏に蔽われた仄暗いところで

子供心には怖かった記憶がある。

昔は、ぼうちち村の子どもたちが、小遣い稼ぎのため

さらに橋を渡った長浜神社へところてんを売りに行っていたそうだが

まず、この地蔵堂で三々五々集まり涼をとってから、神社へ向かったそうだ。

さて

今から二百年前の話である。

ぼうちち村の甚吉という、病身の母親と二人暮らしの子供がおったそうだ。

はやくに父を亡くし、塩売りで生計を立てていた。

塩売りの途中、この地蔵堂で休憩し

母の病気が良くなるようにとひとつまみの塩をお地蔵様にお供えしたそうである。


地蔵堂の裏(ちょうどはな虫さんのところ)には強欲な地主の

ウリ畑があった。

たわわに実ったウリは、もちろん高値で売って、下々の者には見せびらかすだけで決して売らない強欲振りである。


ある日、みずみずしい瓜をみつめていた甚吉は「これをおっかあに食べさせたら元気になるかも知れない」と

ひとつ盗んだ。

それを目にした地主は釣り竿ならぬ刀をむんずと掴みあろうことか子供の首をはねた。

「またつまらんものを切ってしまった」

翌朝、目覚めた地主は「そういえば、子供の手に瓜が握られたままであった」と

畑に勇んでいくと、子供の骸も瓜もない。

子供の手を切り取り、瓜をとりもどそうと持ち出した刀を握ったまま怒りに身を震わせる地主。

そこへpon村の白髭禿頭のぼんさんがあらわれ

「誰じゃ、尊い地蔵菩薩様の首をはねた輩は!」

その叱声に目が覚めた地主はおのれがおこないを深く恥じ

貧しき者へ施しをする仁者と生まれ変わり

その地に生業をする者へとその精神は

着実に受け・・・・


首無し地蔵は秘仏です

(お盆の時ご開帳されます)