身代わり地蔵始末

霊験あらたかな地蔵の首を

六部僧が持ち出し、諸国を行脚した。

六部僧とは、書写した法華経を六十六箇所の寺院に奉納する行脚僧のことである。

甚吉の身代わりとなった地蔵様の出開帳とあって、評判を呼び

六部はどこでも厚遇された。

肥後へ向かう途中、黒川という寒村で背負っていた笈をおろし

地蔵の頭の包みを取り出した。

生暖かく、ぬめっとしている。

不審に思った六部が包みを開くと

地蔵ならぬ

甚吉の生首がごろりと横たわっている

あわてて風呂敷を包み直そうとする六部の顔を

かっと見開いた眼でねめつけ

「ぼうちち村へ連れて帰れ!」

と口をきいた。

腰を抜かす六部

生首を岩間へ放り込み、そのまま逃げた。


うち捨てられた生首

いったい地蔵菩薩の足もとはふかく餓鬼道への通路へとつながっている。

岩を打ちひらき、ずぶずぶと身を沈める甚吉

するとその裂け目から、温泉がこんこんと湧き出でた。

黒川温泉の始原である。


pon村に祀られる

甚吉地蔵の胴体


「頭を返してけれ」